・・・一人の見栄坊な婦人がどうこうということで解決のつくことではないことは、複雑な今日の片よった景気の派生物である事件の弁明に際して、その夫人の虚栄心云々が余り強調せられる結果、却って当然の推理となって一般人の常識に反映しているのである。 就・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・体はみたところ肥って、陽に焼けてしっかりしたようだそうだけれど、神経がどうこう、気持がどうこうというわけで、そちらの方が難物です。私も気にしているけれど、お医者様への手紙には「うちのものには絶対に言ってくれるな」と念をおしているそうだし、一・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・慶応に入院していた間に眼の検査をしてもらったところ、私の眼は右と左とで大変度がちがっているので、今かけている眼鏡より度はちがえられないが、瞳孔距離がちがうというので処方を書いて貰っていた、それをやっとこのごろ、今日、なおしに出かけたのです。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「過去一年をふりかえってみて私としてもっとも強い関心を感じることは、個々の法令、個々の規則ということよりも、それらの禁圧的法令、規則の脊後を通じて一貫している最近の政治動向そのものについてである。」「ここ一年以来の民自党政府のやり方には・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・小説は、果してこの急激な底潮を感じさせる時代の空気と動向とを芸術化しているであろうか。 文学の仕事に従事するのは何時の時代にもそれぞれの階級の知識的な分子である。ブルジョア文学はブルジョアのインテリゲンツィアによって作られて来た。プロレ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・プロレタリア文化・文学運動の全体関係においての敗北の時期にあたって、当時の多くのプロレタリア文学者たちが自分たちの経験を箇人的にのみみて、客観的に大衆の負うている歴史の特殊性と日本インテリゲンツィアの動向との関係として自身の敗北をも追求し、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性をもつ文芸思潮というものが退潮して後、しかも今日では被うべくもない文化に対する統制が次第に現れようとする時であった。森田たま氏の「もめん随筆」・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・高見順と共に新人として登場した丹羽文雄の作品などもその世界に生きる人間群の現実的な生活のモティーヴだの動向だのという面からの観察は研ぎ込まれていず、人物の自然発生な方向と調子に従って、ひたすらその路一筋を辿りつめる肉体と精神の動きが跡づけら・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ もし行動主義を唱えた人々が過去の文学と各自の社会人としての閲歴に理想的な批判を向けることさえ出来たならば、大森義太郎のように、嵐が通ってしまってから洞を出て来て、あの嵐のふきかたはどうこうというような批判は、正当に克服しつつ自身の文学・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・昏迷や作品の上での無解決が問題ではなく昏迷・無解決そのものの社会的・心理的因子と作者の企図する動向が芸術の胚種であることは誰しも知っている。作品の読後感がそこに触れざるを得ない理由もここにある。 作家の主観というものは、それだけにたよっ・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
出典:青空文庫