・・・だから動物電気の工合で、男をヒイキにするが、女とは同性で相反撥し合う。やきもちをやく。故に女の作家というのは少ないが、音楽家を見るがいい、女で素晴らしい人がこれまでも多勢出たし、いまも出つつある。音楽の神はアポローだ。男だ。女をヒイキにして・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・「すべての人間の中に、言葉や行為のみならず感情の矛盾が、角ばって具合わるく同棲している。」その気まぐれな跳梁が自分自身の裡にも感じられる。これがゴーリキイを苦しめ、圧した。「初めて魂の疲労と、心臓の中の毒々しい黴を感じた。」ロシアの民衆にと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 男の先生と女の生徒との間には、同性間に見られない特殊な雰囲気の生ずることは誰でも知っていることで、その最も美しい例を私共は、聖フランシスと聖クララとの情宜、良寛の女弟子との交り等に示されています。マダム・キューリーの夫妻関係にも幾分師・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・然れども婦人の心正しく行儀能して妬心なくば去ずとも同姓の子を養うべし。或は妾に子あらば妻に子なくとも去に及ばず。三には淫乱なれば去る。四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き病あらば去る。六に多言にて慎なく物いい過すは親類とも中悪く成り家・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 例えば、或る中年を越した左翼的生活経験をもつ一人の男が、過去の家庭生活を更えて、妻子と離れ仕事に於ても共通点のある若い女と同棲生活に入ろうと欲する。その欲望は、男にのこされている生涯がそう永いものではないという見透しや、男一生の思い出・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・家庭へ入れば、そこの窓越しに外で働いている同性たちの姿を見て、あるときはいささか批評がましい眼つきをもする。何事かあって、生活のため母として働かなければならなくなったとき、そういう今日までの女の心は、外へ働きに出るという先ずそのことで悲壮に・・・ 宮本百合子 「若い母親」
・・・若い女性の心理を、典型的な今日の若い女性が自己告白の文章によって描き出したという興味と意味とがおかれている。若い同性の読者たちは、この本のなかに自分たちの気分や気持がそのまま語られていることに多大の共鳴を見出すだろうし、青年たちも公然とある・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・婦人解放運動家に対して、同性である婦人たちが、一種軽蔑と懐疑の眼を向けるほど、それらの人々の努力は無視されたのであった。ところが、歴史は推移して、昨一九四五年十月、日本の支配者たちは、人民に対する敗北の一つの大きいしるしとして、治安維持法を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ その時、秋三はふと勘次の家と安次の家とは同姓で、その二家以外に村には谷川と名附けられる姓の一軒もないのに気がついた。してみれば、今安次を勘次の家へ、株内と云う口実で連れていったとしたならば? 勘次の母の吝嗇加減を知っていればそれだけ、・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫