・・・ いきなり卓子の上へショオルだの、信玄袋だのがどさどさと並びますと、連の若い男の方が鉄砲をどしりとお乗せなすった。銃口が私の胸の処へ向きましたものでございますから、飛上って旦那様、目もくらみながらお辞儀をいたしますると、奥様のお声で、・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・……次にまた浴衣に広袖をかさねて持って出た婦は、と見ると、赭ら顔で、太々とした乳母どんで、大縞のねんね子半纏で四つぐらいな男の児を負ったのが、どしりと絨毯に坊主枕ほどの膝をつくと、半纏の肩から小児の顔を客の方へ揉出して、それ、小父さんにをな・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 大急で帰宅って土間にどしりと俵を下した音に、泣き寝入に寝入っていたお源は眼を覚したが声を出なかった。そして今のは何の響とも気に留めなかった。磯もそのままお源の後から布団の中に潜り込んだ。 翌朝になってお源は炭俵に気が着き、喫驚して・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・翁は行きづまってしまったので、仙人主義を弁護する理屈に立ち返ってしきりと考えこんでいると、どしりとばかり同じベンチに身を投げるように腰をおろした者がある。振り向いて見るや、「オヤ河田さんじゃないか。」 先方は全く石井翁に気がつかなか・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ ところが平二は人のいい虔十などにばかにされたと思ったので急に怒り出して肩を張ったと思うといきなり虔十の頬をなぐりつけました。どしりどしりとなぐりつけました。 虔十は手を頬にあてながら黙ってなぐられていましたがとうとうまわりがみんな・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・木樵は草の中にどしりと落ちてううんと云いながら少し動いたようでしたがまだ気がつきませんでした。 土神は大声に笑いました。その声はあやしい波になって空の方へ行きました。 空へ行った声はまもなくそっちからはねかえってガサリと樺の木の処に・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 大抵の裁判はネネムが出て行って、どしりと椅子にすわって物を云おうと一寸唇をうごかしますと、もうちゃんときまってしまうのでした。 さて、ある日曜日、ペンネンネンネンネン・ネネムは三十人の部下をつれて、銀色の袍をひるがえしながら丘へ行・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫