・・・と小山は胡坐をどっかりと組直した。 落着いて聞いてくれそうな様子を見て取り、婆さんは嬉しそうに、「何にいたせ、ちっとでもお心に留っておりますなら可哀そうだと思ってやって下さいまし。こうやってお傍でお話をいたしますのは今日がはじめて。・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・が、何かにつけて蝶子は自分の甲斐性の上にどっかり腰を据えると、柳吉はわが身に甲斐性がないだけに、その点がほとほと虫好かなかったのだ。しかし、その甲斐性を散々利用して来た手前、柳吉には面と向っては言いかえす言葉はなかった。興ざめた顔で、蝶子の・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・どこで飲んだかだいぶ酔っていましたが、私が奥の部屋に臥転んでいると、そこへずかずか入って来まして、どっかり大あぐらをかきました。お幸は私の傍に坐っていたのでございます。『そとは大変な降りでござりますぜ、今夜はお泊りなされませ』と武は妙に・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・私の足もとに、どっかり腰をおろして、私の顔を下から覗き、「坐らないかね、君も。そんなに、ふくれていると、君の顔は、さむらいみたいに見えるね。むかしの人の顔だ。足利時代と、桃山時代と、どっちがさきか、知ってるか?」「知らないよ。」私は、形・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・あれば安心だから、蒲団をもとのごとく直して、その上にどっかり坐った。 お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が云った。そういつまでも悟れぬところをもって見ると、御前は侍ではあるまいと言った。人間の屑じゃと言った。ははあ怒ったな・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ それから棚から鉄の棒をおろして来て椅子へどっかり座って一ばんはじのあまがえるの緑色のあたまをこつんとたたきました。「おい。起きな。勘定を払うんだよ。さあ。」「キーイ、キーイ、クヮア、あ、痛い、誰だい。ひとの頭を撲るやつは。」・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 嘉十は芝草の上に、せなかの荷物をどっかりおろして、栃と粟とのだんごを出して喰べはじめました。すすきは幾むらも幾むらも、はては野原いっぱいのように、まっ白に光って波をたてました。嘉十はだんごをたべながら、すすきの中から黒くまっすぐに立っ・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・ゴーシュはねどこへどっかり倒れてすぐぐうぐうねむってしまいました。 それから六日目の晩でした。金星音楽団の人たちは町の公会堂のホールの裏にある控室へみんなぱっと顔をほてらしてめいめい楽器をもって、ぞろぞろホールの舞台から引きあげて来まし・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ さっきの蕈を置いた処へ来ると理助はどっかり足を投げ出して座って炭俵をしょいました。それから胸で両方から縄を結んで言いました。「おい、起して呉れ。」 私はもうふところへ一杯にきのこをつめ羽織を風呂敷包みのようにして持って待ってい・・・ 宮沢賢治 「谷」
・・・そして荷物をどっかり庭におろして、おかしな声で外から怒鳴りました。「開けろ開けろ。お帰りだ。大尽さまのお帰りだ」 六平の娘が戸をガタッと開けて、「あれまあ、父さん。そったに砂利しょて何しただす」と叫びました。 六平もおどろい・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
出典:青空文庫