・・・という顔付で、店頭の土間に居る稼ぎ人らしい内儀さんの側へ行った。「お内儀さん、今日は何か有りますかネ」 と尋ねて、一寸そこへ来て立った高瀬と一諸に汽車を待つ客の側に腰掛けた。 極く服装に関わない学士も、その日はめずらしく瀟洒なネ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・という顔付で、店頭の土間に居る稼ぎ人らしい内儀さんの側へ行った。「お内儀さん、今日は何か有りますかネ」 と尋ねて、一寸そこへ来て立った高瀬と一諸に汽車を待つ客の側に腰掛けた。 極く服装に関わない学士も、その日はめずらしく瀟洒なネ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・その休茶屋には、以前お三輪のところに七年も奉公したことのあるお力が内儀さんとしていて、漸くのことでそこまで辿り着いた旧主人を迎えてくれた。こんな非常時の縁が、新七とお力夫妻とを結びつけ、震災後はその休茶屋に新しい食堂を設け、所謂割烹店でなし・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・その休茶屋には、以前お三輪のところに七年も奉公したことのあるお力が内儀さんとしていて、漸くのことでそこまで辿り着いた旧主人を迎えてくれた。こんな非常時の縁が、新七とお力夫妻とを結びつけ、震災後はその休茶屋に新しい食堂を設け、所謂割烹店でなし・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・うなだれている番頭は、顔を挙げ、お内儀のほうに少しく膝をすすめて、声ひそめ、「申し上げてもよろしゅうございますか。」 と言う。何やら意を決したもののようである。「ああ、いいとも。何でも言っておくれ。どうせ私は、あれの事には、呆れ・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・うなだれている番頭は、顔を挙げ、お内儀のほうに少しく膝をすすめて、声ひそめ、「申し上げてもよろしゅうございますか。」 と言う。何やら意を決したもののようである。「ああ、いいとも。何でも言っておくれ。どうせ私は、あれの事には、呆れ・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・近所のお内儀さんなどが通りがかりに児をあやすと、嬉しそうな色が父親の柔和な顔に漲る。女房は店で団扇をつかいながら楽しげにこの様を見ている。涼しい風は店の灯を吹き、軒に吊した籠や箒やランプの笠を吹き、見て過ぐる自分の胸にも吹き入る。 自分・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・近所のお内儀さんなどが通りがかりに児をあやすと、嬉しそうな色が父親の柔和な顔に漲る。女房は店で団扇をつかいながら楽しげにこの様を見ている。涼しい風は店の灯を吹き、軒に吊した籠や箒やランプの笠を吹き、見て過ぐる自分の胸にも吹き入る。 自分・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・あっぱっぱのはだけた胸に弁当箱をおしつけて肩をゆすりながらくる内儀さん。つれにおくれまいとして背なかにむすんだ兵児帯のはしをふりながらかけ足で歩く、板裏草履の小娘。「ぱっぱ女学生」と土地でいわれている彼女たちは、小刻みに前のめりにおそろしく・・・ 徳永直 「白い道」
・・・あっぱっぱのはだけた胸に弁当箱をおしつけて肩をゆすりながらくる内儀さん。つれにおくれまいとして背なかにむすんだ兵児帯のはしをふりながらかけ足で歩く、板裏草履の小娘。「ぱっぱ女学生」と土地でいわれている彼女たちは、小刻みに前のめりにおそろしく・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫