・・・ちょうど文法というものを中学の生徒などが習いますが、文法を習ったからといってそれがため会話が上手にはなれず、文法は不得意でも話は達者にもやれる通弁などいうものもあって、その方が実際役に立つと同じ事です。同じような例ですが歌を作る規則を知って・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・戦国のならい、ウィリアムは馬の背で人と成ったのである。 去年の春の頃から白城の刎橋の上に、暁方の武者の影が見えなくなった。夕暮の蹄の音も野に逼る黒きものの裏に吸い取られてか、聞えなくなった。その頃からウィリアムは、己れを己れの中へ引き入・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・しきは敢て婬乱を恣にして配偶者を虐待侮辱するも世間に之を咎むる者なく、却て其虐待侮辱の下に伏従する者を見て賢婦貞女と称し、滔々たる流風、上下を靡かして、嫉妬は婦人の敗徳なりと教うれば、下流社会も之を聞習い、焼餅は女の恥など唱えて、敢て自から・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・よって吾が党の士、相ともに謀りて、私にかの共立学校の制にならい、一小区の学舎を設け、これを創立の年号に取りてかりに慶応義塾と名づく。 ことし四月某日、土木、功を竣め、新たに舎の規律勧戒を立てり。こいねがわくは吾が党の士、千里笈を担うてこ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・またその人が、イーハトーヴの市で一か月の学校をやっているのを知って、たいへん行って習いたいと思ったりしました。 そして早くもその夏、ブドリは大きな手柄をたてました。それは去年と同じころ、またオリザに病気ができかかったのを、ブドリが木の灰・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 小学校へ入って程なく音楽がすきだからというのでピアノを習いはじめた。うちにはベビイ・オルガン一台あるきりで其で教則本をあげた。そしたら先生がピアノを買った方がいいだろうというすすめで、一台中古を見つけてくれた。或る晩、九つの私は父につ・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・有って都合の悪いものと云えば誰でも知る居候、大家のならいこの御館にも男二人女二人のかかり人。 二人の男君は三代前の何とか彼とかの面倒なかかり合から、働くのもつらし、これ幸と一人前の大男が二人までのやっかいもの。 二人の女君は後室の妹・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・見れば子供衆が菓子を食べていなさるが、そんな物は腹の足しにはならいで、歯に障る。わしがところではさしたる饗応はせぬが、芋粥でも進ぜましょう。どうぞ遠慮せずに来て下されい」男は強いて誘うでもなく、独語のように言ったのである。 子供の母はつ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・安国寺さんを送り出してから、私は夕食をして馬借町の宣教師の所へフランス語を習いに往った。 そんな風であったから、私が小倉を立つ時、停車場に送ってくれた同僚やら知人やらは非常に多かったが、その中で一番別を惜んだものは安国寺さんであった。「・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・本当になんでも無い事のお蔭で、どんな結構な事でも出来たり出来なかったりするのが世の習いとかでございますのね。あなた、もうなんにもおっしゃりっこなしよ。後悔なすったってあなたのおためにもわたくしのためにもなりませんわ。まあ、あの時の埋合せにこ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫