・・・ 新らしい鳥屋に入ってそこに馴れるまでは卵は生まないとか、たまには泥鰌の骨を食べさせて、新らしい野菜をかかさない様にと教えてやったそうだけれ共あんまり功はなかったらしい。 段々庭の様子に馴れて来た鳥はせまい竹垣の中では辛棒が仕切れな・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・忙しくなってゆく迅さは、重吉が市中の混雑や、つっけんどんな乗物の出入りに馴れるよりも急速であった。永年長い道を歩いたことのなかった重吉は、怪訝そうに、「変だねえ、どうしてこんなところが痛いんだろう」 靴下をぬいで、ずきずき疼く踵をお・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・英国人の他人種に馴れる馴れ方はフランス人の馴れ方と違う。英国人が或他人種に彼らの馴れを示した時は必ずその人種が彼等の物となってしまっている時である。かくて―― S・M氏夫妻は日本に於ける彼の店がつぶれた後ロンドンへ来た日本人である。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・少し目の慣れるまで、歩き艱んだ夕闇の田圃道には、道端の草の蔭でこおろぎが微かに鳴き出していた。 * * * 二三日立ってから蔀君に逢ったので、「あれからどうしました」と僕が聞いたら、蔀君がこう云った。・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・明るい所から暗い所に這入ったので、目の慣れるまではなんにも見えなかった。次第に向側にある、停車場の出口の方へ行く扉が見えて来る。それから、背中にでこぼこのある獣のようなものが見えて来る。それは旅人が荷物を一ぱい載せて置いた卓である。最後にフ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫