・・・の主人公にしろ、この間の丹羽文雄氏の作品「怒濤」にしろ、主人公はみんな年とっている。それもただの爺さんというのではなくて、一ひねりもふたひねりをもして人生に生き経た年よりで「怒濤」では、我から示す老いさらぼいを、表面はうっすりつめたい一つの・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・ 八月号の『世界評論』丹羽文雄氏の小説「一時機」と、七、八月『時論』にのった山口一太郎元大尉の二・二六事件の真相「嵐はかくして起きた」「嵐のあとさき」をよみくらべた人はそこに不可解な一つの重複というか、複写版というか問題があることに気づ・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・高見順と共に新人として登場した丹羽文雄の作品などもその世界に生きる人間群の現実的な生活のモティーヴだの動向だのという面からの観察は研ぎ込まれていず、人物の自然発生な方向と調子に従って、ひたすらその路一筋を辿りつめる肉体と精神の動きが跡づけら・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 文学の世代的な性格に即して云えば、石川達三、丹羽文雄、高見順などという諸作家が新進として登場した当時、一時代前の新進は女に捨てられたり失恋したりして小説をかいて来ていたものだが、現代の新人は反対に女を足場にして登場した、ということが云・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・前年度の回顧の中の第一の分類に属する丹羽文雄氏が「私は小説家である」といういせいのいい論文で、社会小説を主張して私小説から脱却しようとする今日の潮流に合していますが、一社会人として社会の進歩の歴史に対して責任を負わない客観主義に立つ社会小説・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・その同じ雑誌にどういう小説家が並んでいるかといえば、永井龍男その他丹羽文雄という工合です。今日の文学が評論界、思想界との間に相当のギャップを持っていることがはっきり見えているわけです。こういうふうにして既成作家のカムバックということにしても・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・池田みち子が婦人の肉体派の作家として登場した。丹羽文雄、石川達三などは風俗小説をとなえて、戦後の混乱した現実を写してゆく文学を主張した。けれども肉体の解放によって封建性に反逆し、人間性を強調するというたてまえの肉体文学が、要するに両性の性に・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 風俗画としての面から今日の文学を見れば、たとえば丹羽文雄氏によって描かれている女の姿も一箇の絵図であろうし、菊池寛氏の家庭、恋愛観も常識というものの動きを除外していえば最もひろい底辺を示しているであろう。 だが、明治の初頭、『女学・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫