・・・――いやしくも廓の寮の俳家である。卯の花のたえ間をここに音信るるものは、江戸座、雪中庵の社中か、抱一上人の三代目、少くとも蔵前の成美の末葉ででもあろうと思うと、違う。……田畝に狐火が灯れた時分である。太郎稲荷の眷属が悪戯をするのが、毎晩のよ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・そのじつ判っているのである。配下の一員は親切に一時間と経ない内に来るからと注意してくれた。 かれこれ空しく時間を送った為に、日の暮れない内に二回牽くつもりであったのが、一回牽き出さない内に暮れかかってしまった。 なれない人たちには、・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・油会所時代に水戸の支藩の廃家の株を買って小林城三と改名し、水戸家に金千両を献上して葵の御紋服を拝領し、帯刀の士分に列してただの軽焼屋の主人ではなくなった。椿岳が小林姓を名乗ったは妻女と折合が悪くて淡島屋を離別されたからだという説があるが全く・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ こういう見地から見て現在一番信頼の出来る施設は中央気象台とその配下にある海洋気象台のそれである。そこにはともかくも一般政治から独立した恒久的観測研究の系統が永い以前から確定されており、その上に当代の有名な学者の数々を聚めているのである・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・精細なる句の俗了しやすきは蕪村のつとに感ぜしところにやあらん、後世の俳家いたずらに精細ならんとしてますます俗に堕つる者、けだし精細的美を解せざるがためなり。妙人の妙はその平凡なるところ、拙きところにおいて見るべし。唐詩選を見て唐詩を評し、展・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・何より俺の頼もしい配下だ。飛べ、飛べ! ぐんと飛んで焼き払え。祖先の時柄にも似合わず、プラミシュースに盗ませた火と云うものの真の威力を知らせて呉れよう。水になんぞは怯じけるな!カラ ああ、私の冷かな鉛の乳房も激しい期待でときめくようだ。・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・小林多喜二を殺したのは安倍源基とその配下です。岩田義道を殺したのも野呂栄太郎をころしてしまったのも安倍源基です。治安維持法が改悪されて日本の民主的なすべての理性、合理的な平和を愛するすべての人の心を踏みにじってしまったのは治安維持法の仕事で・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・それを護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、この同心は罪人の親類の中で、おも立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは上へ通った事ではないが、いわゆる大目に見るのであった、黙許であった。 当時遠島を申し渡された罪・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫