・・・が、人生の説明者たり群集の木鐸たる文人はヨリ以上冷静なる態度を持してヨリ以上深酷に直ちに人間の肺腑に蝕い入って、其のドン底に潜むの悲痛を描いて以て教えなければならぬ。今日以後の文人は山林に隠棲して風月に吟誦するような超世間的態度で芝居やカフ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・こういう厳粛な敬虔な感動はただ芸術だけでは決して与えられるものでないから、作者の包蔵する信念が直ちに私の肺腑の琴線を衝いたのであると信じて作者の偉大なる力を深く感得した。その時の私の心持は『罪と罰』を措いて直ちにドストエフスキーの偉大なる霊・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・村役場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・の仕事にとりかゝって、見向きもしなかった。 検挙は十二月一日から少しの手ゆるみもしないで続いた。そっちにいるお前はおかしく思うだろうが、残された人達が「戦旗」の配布網を守って、飽く迄も活動していた。然し、とう/\持って行き処のなくな・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・凡そ百種くらいの仕掛花火の名称が順序を追うて記されてある大きい番附が、各家毎に配布されて、日一日とお祭気分が、寂れた町の隅々まで、へんに悲しくときめき浮き立たせて居りました。お祭の当日は朝からよく晴れていて私が顔を洗いに井戸端へ出たら、佐吉・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・それらの試作映画を文部省かどこかで検定し、優秀なものは全国に配布することも出来るであろう。これは夢のような話ではあるが、しかし実現の可能性のない夢とは思われない。 いわゆる思想善導の問題でも、あらゆる方法の中で最も有効有力なものは、適当・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・等高線の屈曲配布にはおのずからな方則があっていいかげんなものと正直に実測によったものとは自然に見分けができるのである。 その時に痛切に感じたことは日本の陸地測量部で地形図製作に従事している人たちのまじめで忠実で物をごまかさない頼もしい精・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえば河流の分岐の様式や、樹木の枝の配布や、アサリ貝の縞模様の発生などのよう・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・言葉で現わされない人間の真相が躍然としてスクリーンの上に動いて観客の肺腑に焼き付くのであった。 こういう効果の中には自分自身でその場面に臨んだのではかえって得られないようなものも含まれていることを忘れてはならない。色彩と第三の空間次元を・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ 連句の変化を豊富にし、抑揚を自在にし、序破急の構成を可能ならしむるために神祇釈教恋無常が適当に配布される。そうして「雑の句」が季題の句と同等もしくは以上に活躍する。季題の句が弦楽器であれば、雑の句はいろいろの管楽器ないし打楽器のような・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
出典:青空文庫