・・・所謂古い言葉と今の口語と比べてみても解る。正確に違って来たのは、「なり」「なりけり」と「だ」「である」だけだ。それもまだまだ文章の上では併用されている。音文字が採用されて、それで現すに不便な言葉がみんな淘汰される時が来なくちゃ歌は死なない。・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者と鎬を削る。勝つ者は青史の天に星と化して、芳ばしき天才の輝きが万世に光被する。敗れて地に塗れた者は、尽きざる恨みを残して、長しなえに有情の人を泣かしめる・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわんとするところはほぼ解ることと思う。――いや、も一ついい残したことがある。それは、我々の要求する詩は、現在の日本に生活し、現在の日本語を用い、現在の日本を・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・逢魔が時からは朧にもあらずして解る。が、夜の裏木戸は小児心にも遠慮される。……かし本の紙ばかり、三日五日続けて見て立つと、その美しいお嬢さんが、他所から帰ったらしく、背へ来て、手をとって、荒れた寂しい庭を誘って、その祠の扉を開けて、燈明の影・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ 崖はそもそも波というものの世を打ちはじめた昔から、がッきと鉄の楯を支いて、幾億尋とも限り知られぬ、潮の陣を防ぎ止めて、崩れかかる雪のごとく鎬を削る頼母しさ。砂山に生え交る、茅、芒はやがて散り、はた年ごとに枯れ果てても、千代万代の末かけ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・厳しゅうて笛吹は眇、女どもは片耳殺ぐか、鼻を削るか、蹇、跛どころかの――軽うて、気絶……やがて、息を吹返さすかの。」「えい、神職様。馬蛤の穴にかくれた小さなものを虐げました。うってがえしに、あの、ご覧じ、石段下を一杯に倒れた血みどろの大・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・肉を殺いで、骨を削るのです。ちっとの間御辛抱なさい」 臨検の医博士はいまはじめてかく謂えり。これとうてい関雲長にあらざるよりは、堪えうべきことにあらず。しかるに夫人は驚く色なし。「そのことは存じております。でもちっともかまいません」・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・「解るまい、こりゃおそらく解るまいて。何も儀式を見習わせようためでもなし、別に御馳走を喰わせたいと思いもせずさ。ただうらやましがらせて、情けなく思わせて、おまえが心に泣いている、その顔を見たいばっかりよ。ははは」 口気酒芬を吐きて面・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ともかくも言ってくれ、後で解る事だから頼む、後生だから。」 魂の請状を取ろうとするのでありますから、その掛引は難かしい、無暗と強いられて篠田は夢現とも弁えず、それじゃそうよ、請取ったと、挨拶があるや否や、小宮山は篠田の許を辞して、一生懸・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・に行われて居ると人は云うであろう、それが大きな間違である、それが茶の湯というものが、世に閑却される所以であろう、いくら茶室があろうが、茶器があろうが、抹茶を立てようが、そんなことで茶趣味の一分たりとも解るものでない、精神的に茶の湯の趣味とい・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
出典:青空文庫