・・・こちらは今日あたり繁昌です。私は三日目で、昨夜湯たんぽを二つあてて寝たら今日は大変によくなり、国男さんは青い総毛だった顔をして、どてらを着込んでいます。私の風邪は簡単なもので、もう大丈夫ですから御安心下さい。 ヘッセの『イリース』等を出・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 民主主義文学運動という声とともに、一部から反小林多喜二論は、反特攻隊精神と同性質のものであるかのように繁昌し、それとのたたかいに忙殺された。民主主義文学運動の中に、労働者階級の使命を明らかにして、おのずからプロレタリア文学の伝統のどの・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・しかしその火の光は煖炉の前の半畳敷程の床を黄いろに照しているだけである。それと室内の青白いような薄明りとは違うらしい。小川は兎に角電燈を附けようと思って、体を半分起した。その時正面の壁に意外な物がはっきり見えた。それはこわい物でもなんでもな・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・その具体的な現われは、小田原の城下町の繁盛であった。それは京都の盛り場よりも繁華であったといわれているが、戦乱つづきの当時の状況を考えると、実際にそうであったかもしれない。 この北条早雲の名において、『早雲寺殿二十一条』という掟書が残っ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫