・・・「だって死骸を水葬する時には帆布か何かに包むだけだろう?」「だからそれへこの札をつけてさ。――ほれ、ここに釘が打ってある。これはもとは十字架の形をしていたんだな。」 僕等はもうその時には別荘らしい篠垣や松林の間を歩いていた。木札・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
・・・ 信仰に頒布する、当山、本尊のお札を捧げた三宝を傍に、硯箱を控えて、硯の朱の方に筆を染めつつ、お米は提灯に瞳を凝らして、眉を描くように染めている。「――きっと思いついた、初路さんの糸塚に手向けて帰ろう。赤蜻蛉――尾を銜えたのを是・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ その式場を覆う灰色の帆布は、黒い樅の枝で縦横に区切られ、所々には黄や橙の石楠花の花をはさんでありました。何せそう云ういい天気で、帆布が半透明に光っているのですから、実にその調和のいいこと、もうこここそやがて完成さるべき、世界ビジテリア・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・千部七五〇法というような割引率で、数万を頒布している」。 ジイドの「感覚の玄人」の腕に魅せられた人々は、今猶上に引いた序文の言葉の魔術や、八方からの反撃にかかわらずジイドが飽くまで真理を追究しようとしている態度という架想に陥って、人類の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫