・・・わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情は、おれのとこへ持って来たって仕方がねえや、ばさばさのマントを着て脚と口との途方もなく細い大将へやれって、斯う云ってやりましたがね、はっは。」 すすきがなくなったために、向うの野原から、ぱっとあかりが射し・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ しばらくたつと日が変にくらくなり、こまかな灰がばさばさばさばさ降って来て、森はいちめんにまっ白になりました。ブドリたちがあきれて木の下にしゃがんでいましたら、てぐす飼いの男がたいへんあわててやって来ました。「おい、みんな、もうだめ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ おまけに水平線の上のむくむくした雲の向うから鉛いろの空のこっちから口のむくれた三疋の大きな白犬に横っちょにまたがって黄いろの髪をばさばささせ大きな口をあけたり立てたりし歯をがちがち鳴らす恐ろしいばけものがだんだんせり出して昇って来まし・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・見ると、茶色のばさばさの髪の巨きな赤い顔が、こっちを見あげて、手を延ばしているのです。「ああ山男だ。助かった。」と楢夫は思いました。そして、楢夫は、忽ち山男の手で受け留められて、草原におろされました。その草原は楢夫のうちの前の草原でした・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・ その眼は闇のなかでおかしく青く光り、ばさばさの髪を渦巻かせ口をびくびくしながら、東の方へかけて行きました。 野はらも丘もほっとしたようになって、雪は青じろくひかりました。空もいつかすっかり霽れて、桔梗いろの天球には、いちめんの星座・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・ それと同時に、林の中は俄かにばさばさ羽の音がしたり、嘴のカチカチ鳴る音、低くごろごろつぶやく音などで、一杯になりました。天の川が大分まわり大熊星がチカチカまたたき、それから東の山脈の上の空はぼおっと古めかしい黄金いろに明るくなりました・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ そして日あたりのいい南向きのかれ芝の上に、いきなり獲物を投げだして、ばさばさの赤い髪毛を指でかきまわしながら、肩を円くしてごろりと寝ころびました。 どこかで小鳥もチッチッと啼き、かれ草のところどころにやさしく咲いたむらさきいろのか・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・ただ、九州に来て、線の素直な、簡明な樹幹ばかり眺めていたところへ、いやに動物的にうねくって縺れ合った檳榔樹の体やばさばさふりかぶった葉を見、暗く怪奇な印象を与えられたのは面白い。なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊るには、白く塗ったところへ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・だがそれは、今日の一部の青年たちが好んで黒の紋付羽織を着て、袴をばさばさとはいて、白い太い紐を胸の前に下げて歩いている、その好みと合致するものであっても、工場生活の人には合わない。云ってみれば、優秀な技術者の精神は詩吟向ではつとまらないので・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫