・・・たとえば水面に浮かんでいる睡蓮の花が一見ぱらぱらに散らばっているようでも水の底では一つの根につながっているようなものである。 一つ一つの意識的な具象からは識閾の下に無数の根を引いており、その根の一つ一つはまた他のたくさんの具象の根と連結・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・また同じ人の名が色々な住所と結合してぱらぱらに散在しているので、どれが現住所であるか、当人でさえ時々間違えることがありそうである。年賀はがきを大切にしまっておくのももっともな訳である。ただし市会議員のよこしたのだけは紙くずかごに入れるようで・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・それを眼の高さに三十センチの処まで持って来て、さて器用な手つきをしてぱらぱらと数えて見せた。自分達は半ば羨ましく半ば感心してそれを眺めたことであった。食堂のガラス窓越しに見える水辺の芝生に大名行列の一団が弁当をつかっているのが見える。揃いの・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・「雨はざあざあ ざっざざざざざあ 風はどうどう どっどどどどどう あられぱらぱらぱらぱらったたあ 雨はざあざあ ざっざざざざざあ」「あっだめだ、霧が落ちてきた。」とふくろうの副官が高く叫びました。 なるほど月はもう青・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・「ではそのわしがこの紙をひとつぱらぱらめくるからみんないっしょにこう云いなさい。亜片はみんな差しあげ候と、」 まあよかったとひなげしどもはみんないちどにざわつきました。お医者は立って云いました。「では」ぱらぱらぱらぱ・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
第一日 夜なかに不図目がさめた。雨の音がする。ぱらぱら寝台車の屋根を打つ音が耳に入った。私は、家に臥て静に夜の雨音を聴くようなすがすがしいいい心持がした。 午前六時何分かに、鳥栖で乗換る頃には霧雨・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
出典:青空文庫