・・・足の先が濡れて、ひりひりと痛んだ。坂田は無意識に名刺を千切った。五町行き、ゆで玉子屋の二階が見えた。陰気くさく雨戸がしまっていたが、隙間から明りが洩れて、屋根の雪を照らしていた。まだ眼を覚している照枝を坂田は想った。松本の手垢がついていると・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・ 相変らずの油照、手も顔も既うひりひりする。残少なの水も一滴残さず飲干して了った。渇いて渇いて耐えられぬので、一滴甞める積で、おもわずガブリと皆飲んだのだ。嗚呼彼の騎兵がツイ側を通る時、何故おれは声を立てて呼ばなかったろう? よし彼が敵・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・薄荷のようにひりひりする唇が微笑している。 彼は、嫉妬と憤怒が胸に爆発した。大隊を指揮する、取っておきのどら声で怒なりつけようとした。その声は、のどの最上部にまで、ぐうぐう押し上げて来た。 が、彼は、必死の努力で、やっとそれを押しこ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
出典:青空文庫