・・・ カイロ団長は、はやしにつりこまれて、五へんばかり足をテクテクふんばってつなを引っ張りましたが、石はびくとも動きません。 とのさまがえるはチクチク汗を流して、口をあらんかぎりあけて、フウフウといきをしました。全くあたりがみんなくらく・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 平和な日本をうちたててゆくということは御都合主義で、あっちの風がふけばそう靡き、こっちの風がふけば、こうなびく無責任さでは実現されない。科学上の真実は、社会の実際にそれが変化してあらわれるからこそ、動かしがたい真実として存在しなければ・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・ふだんにまして気むずかしい機嫌を取りそこねて女中が一日中びくびくして居なければならない様なのもその頃だった。 京子は毎日の様に来て呉れた。 京子に云いつけられてだれが来ても女中は、 頭の工合が悪くいらしっておよってでございま・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ ついでに宇野浩二氏の『子の来歴』についても一言生活としての例を挙げるとすると、この作も私は人々のいう如く感心をし、見上げた作品だと思ったが、しかし、この作品には、もっとも大切な親心のびくびくした感情というものは少しも出ていないように思・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫