・・・「翁様、娘は中肉にむっちりと、膚つきが得う言われぬのが、びちゃびちゃと潮へ入った。褄をくるりと。」「危やの。おぬしの前でや。」「その脛の白さ、常夏の花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが――年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ その男はこっちへびちゃびちゃ岸をあるいて来ました。「あ、あいづ専売局だぞ。専売局だぞ。」佐太郎が言いました。「又三郎、うなのとった煙草の葉めっけたんだで、うな、連れでぐさ来たぞ。」嘉助が言いました。「なんだい。こわくないや・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・みんな怒って、何か云おうとしているうちに、その人は、びちゃびちゃ岸をあるいて行って、それから淵のすぐ上流の浅瀬をこっちへわたろうとした。ぼくらはみんな、さいかちの樹にのぼって見ていた。ところがその人は、すぐに河をわたるでもなく、いかにもわら・・・ 宮沢賢治 「さいかち淵」
・・・ 麻生は鶏を島村に渡して、鞋をびちゃびちゃ言わせて帰って行った。 石田は長靴を脱いで上がる。雨覆を脱いで島村にわたす。島村は雨覆と靴を持って勝手へ行く。石田は西の詰の間に這入って、床の間の前に往って、帽をそこに据えてある将校行李の上・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫