・・・婆やはぴょこぴょこと幾度も頭を下て、前垂で、顔をふきふき立って行った。 泣きわめいている八っちゃんをあやしながら、お母さんはきつい眼をして、僕に早く碁石をしまえと仰有った。僕は叱られたような、悪いことをしていたような気がして、大急ぎで、・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・ これが二十年前のこういう種類の飲食店だと、店の男がもみ手をしながら、とにかく口の先で流麗に雄弁なわび言を言って、頭をぴょこぴょこ下げて、そうした給仕女をしかって見せるところであろうが、時代の一転した一九三五年の給仕監督はきわめて事務的・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そしてホモイの前にぴょこぴょこ頭を下げて申しました。 「ホモイさま、どうか私どもに鈴蘭の実をお採らせくださいませ」 ホモイが、 「いいとも。さあやってくれ。お前たちはみんな僕の少将だよ」 りすがきゃっきゃっ悦んで仕事にかかり・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・親父がぴょこぴょこお辞儀をして、酒樽の鏡を抜いて馳走をしたもんだから、拍子抜がして素直に帰って行きゃあがった。ところが二三日するとまた遣って来やがった。倅の方は利かねえ気の奴だったから、野猪狩に持って行く鉄砲を打ち掛けた。そうすると奴共慌て・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫