・・・この表面の挫折に遭うまでのフロレンスは、何といっても自分の境遇の条件にしばられている一方であったが、この八年に、彼女は不撓な精神で、自分の境遇の条件を一貫した目的に従わせ、そのために活かしてつかって行くという生涯の態度を学んだのであった。・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・人類が今日まで夥しい努力と犠牲によって押しすすめて来た文化の蓄積を最も豊富、活溌に人間性の開花に資するようにうけとり活用して、そのような動的形態の中に脈々と燃える人間精神の不撓な前進の美を感得することは、何故これらの批評家にとってこれ程まで・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・下層階級出身のゴーリキイが波瀾多いジクザクの道を経てその晩年には遂に人類的な規模で進歩的文化の地の塩となり得た迄の過程には、とりも直さず十九世紀後半から今日まで、夥しい犠牲に堪えつつ不撓な精神と情熱とをもって、自身を縛る鎖を断ち切るために闘・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・を貫いて流れている熱い生活力、不撓な意志、卑劣を侮蔑する強い精神そのものが、おのずからプロレタリアの闘争と一脈相通じるものであった。ゴーリキイはそうと自身知らずに新興労働階級の代表として立ち現れた。どん底からの創造力の可能性をひびかせ初めた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・たとえばキュリー夫人のラジウムにしろ、もし彼女とその卓抜な夫のピエールとがある発光体に最初の注意をひきつけられてゆかなかったとしたらば、彼女の不撓な根気強さもラジウムに到達することはなかった。 こうして考えてみると、現実を知っているとい・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・を貫いて流れている熱い生活力、不撓な意志、卑劣を侮蔑する強い精神、感情そのものは、ゴーリキイが自ら悟ったよりもっと雄弁に、どん底からの創造力の可能を世界に鳴り響かせたのであった。 このチフリス市の生活が、ゴーリキイの作家としての生涯の第・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・である不屈不撓な事業熱をもっている船長イーベン・ホーレイの多難な生涯と揚子江上の荒々しい回漕事業の盛衰とをこの小説の縦糸にしているのである。 中国の歴史がうつりかわるにつれて揚子江沿岸の軍閥が擡頭して、白人の事業を破滅に導き、それがやが・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・しかし美のゆえに礼拝せらるべき芸術品としては、確かにパウロから不当な取り扱いを受けた。今やその不当な取り扱いは償われ、ただ芸術品としての威厳をもって人々の上に臨んだのである。 かくのごとき偶像の再興はまた千年にわたる教権の圧迫への反抗を・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・つまらない芽を大きくするためにいい芽がたくさん閑却されても、それを不当だとして罰する力はないのです。 実を言えばそのテエマは、おのおの独特な形で、あらゆる人間の内にひそんでいるのであります。そうしてそれがハッキリと現われて来れば、雑然と・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫