・・・テエブルに並べられたビイル瓶が六本になれば、日本酒の徳利が十本になれば、私は思い出したようにふらっと立ちあがり、お会計、とひくく呟くのである。五円を越えることはなかった。私は、わざとほうぼうのポケットに手をつっこんでみるのだ。金の仕舞いどこ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・ 十唱 あたしも苦しゅうございます おい、襖あけるときには、気をつけてお呉れ、いつ何時、敷居にふらっと立って居るか知れないから、と某日、笑いながら家人に言いつけたところ、家人、何も言わず、私の顔をつくづく見つめて、あ・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・さすがの歩哨もとうとうねむさにふらっとします。 二疋の蟻の子供らが、手をひいて、何かひどく笑いながらやって来ました。そしてにわかに向こうの楢の木の下を見てびっくりして立ちどまります。「あっ、あれなんだろう。あんなところにまっ白な家が・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・土神は何とも云えずさびしくてそれにむしゃくしゃして仕方ないのでふらっと自分の祠を出ました。足はいつの間にかあの樺の木の方へ向っていたのです。本当に土神は樺の木のことを考えるとなぜか胸がどきっとするのでした。そして大へんに切なかったのです。こ・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
出典:青空文庫