・・・桑原武夫が、日本の文学がつまらぬのは、外国の文学に含まれている、人間がいかに生くべきかという思想がないからだという意味のことを言っていたが、結局それは私に解釈させれば、日本の伝統的小説には人間の可能性が描かれていないということだ。そしてこの・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 文学は文学者にとって運命でなければならぬ――と北原武夫氏が言っているのは、いい言葉で、北原氏はエッセイを書くと読ませるものを書くが、しかし、「天使」という北原氏の小説は終りまで読めなかった。「天使」には文学が運命になっている作家北・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・斎藤武夫拝。太宰治様。」「御手紙拝見。お金の件、お願いに背いて申し訳ないが、とても急には出来ない。実は昨年、県会議員選挙に立候補してお蔭で借金へ毎月可成とられるので閉口。選挙のとき小泉邦録君から五十円送って貰った。これだけでも早くお返し・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「第四の時期を Druerie と呼ぶ。武夫が君の前に額付いて渝らじと誓う如く男、女の膝下に跪ずき手を合せて女の手の間に置く。女かたの如く愛の式を返して男に接吻する」クララ遠き代の人に語る如き声にて君が恋は何れの期ぞと問う。思う人の接吻さえ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・桑原武夫の評論の中でも、この「レンズの光度の低さ」は「日本的方法の限界を示し」、日本の文学に共通な後進性として、鋭いフォークで刺されている。そして、スタインベックが旅行記をかいたように、その他ヨーロッパの誰彼が旅行記をかいたように、日本の作・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・桑原武夫が、民主主義文学であるならばそれは社会主義的リアリズムの手法をもつべきものであるとして、「宮本百合子論」の中に、スタインベックのソヴェト紀行をあげていた。社会主義的リアリズムは、労働者階級の勝利と社会主義社会への展望にたっているから・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 桑原武夫氏が十日の毎日で「引揚げ」という文中に、インターナショナルをうたって引揚げて来た人々を見て政府がびっくりしたからといって、すぐその「驚き」の感情を「取締り」に転化させることのあやまりを警告していた。わたしたちの「驚き」は、反人・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・織田作之助、舟橋聖一、北原武夫、坂口安吾その他の人々の作品があります。 個々の作家についてみればそれぞれ異った作風、デカダンスの解釈とエロティシズムへの態度があるけれども、総体としてみて、今日、新しい人間性の確立がいわれている中で、デカ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・先頃沼波武夫君は一幕物の中のサロメの誤訳を指摘してくれられた。近比伊庭孝君は同書の中の痴人と死との誤訳を指摘してくれられた。それ等も改版の折に訂正したく思っている。十三 私は誤訳をしたのを、苦心が足りなかったのだと云った。そ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫