・・・お茶の席に於いて大いなるへまを演じ、先生に叱咤せられたりなどする事のないように、細心に独習研鑽して置かなければならぬ。 まず招待を受けた時には、すぐさま招待の御礼を言上しなければならぬ。これは、会主のお宅へ参上してお礼を申し上げるのが本・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ねんねんと動き、いたるところ、いたるところ、かんばしからぬへまを演じ、まるで、なっていなかった、悪霊の作者が、そぞろなつかしくなって来るのだ。軽薄才子のよろしき哉。滅茶な失敗のありがたさよ。醜き慾念の尊さよ。 Confite・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・ だが、彼はそこでへまを踏むわけには行かなかった。それが誰のものだろうが、そのバスケットは自分のものでなければ収拾する事が出来なかった。「だって兄さん。そりゃ俺んだよ。踏んづけちゃ困るね」「そんな大切なものなら、打っ捨らかし・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・でも、私のように欲ばると、いろいろへまをやって、どうやらこの頃は、時間というもののほとんど驚くべき性質=同じ三時間のつかいようで、生涯の仕事としての何かが加えられたり、全く空に消えたりすることの驚くべき性質を実感してつかむことが出来るように・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・勝負事に負けて金に困ったものですから、どうかして金が取りたいと思って、あんなへまな事をしました。わたしは泉州生田郡上野原村の吉兵衛と云うものの伜で、名は虎蔵と云います。酒井様へ小使に住み込む時、勝負事で識合になっていた紀州の亀蔵と云う奴の名・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・前便に申上候井上の嬢さんに引き合せくれんと、谷田の奥さんが申され候ゆゑ、今日上野へまゐり、只今帰りてこの手紙をしたため候。私と谷田の奥さんとにて先に参りをり候処へ、富子さん母上と御一しよに来られ、車を降りて立ち居られ候高島田の姿を、初て見候・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫