-
・・・皮膚にべとつくようでかなわんのだ」私もそれは同じ思いであった。 佐竹はハンケチをていねいに畳んで胸のポケットにしまいこみながら、よそごとのようにして呟いた。「朝顔みたいなつらをしやがって、と来るんじゃないかね?」 馬場はそっと起きあ・・・
太宰治
「ダス・ゲマイネ」
-
・・・矢張りべとつくアンペラ草履で二階へ行くと、高等室とは反対の、畳敷の室へ入れられ、見ると、母親が窓近くの壁にもたれて居心地わるげに坐っている。オリーヴ色の雨合羽が袖だたみにして前においてある。自分を引出して来たスパイは、「……じゃあ」・・・
宮本百合子
「刻々」