・・・何でもないというと、だから貴女は駄目だ、凡そ宇宙の物、森羅万象、妙ならざるはなく、石も木もこの灰とても面白からざるはなし、それを左様思わないのは科学の神に帰依しないのだからだ、とか何とか、難事しい事をべらべら何時までも言うんですもの。私、眠・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ 磯吉の食事が済むとお源は笊を持て駈出して出たが、やがて量炭を買て来て、火を起しながら今日お徳と木戸のことで言いあったこと、旦那が木戸を見て言った言葉などをべらべら喋舌て聞かしたが、磯は「そうか」とも言わなかった。 そのうち磯が眠そ・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 僕はなぜこうべらべらしゃべってしまうのだろう。軽薄。狂躁。ほんとうの愛情というものは死ぬまで黙っているものだ。菊のやつが僕にそう教えたことがある。君、ビッグ・ニュウス。どうしようもない。菊が君に惚れているぞ。佐野次郎さんには、死んでも言う・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・そんなに、べらべら、しつこく、どろぼうに絡みついているわけは、どろぼうは、何も言わず、のこのこ机の傍にやって来て、ひき出しをあけて、中をかき廻し、私の精一ぱいのいやがらせをも、てんで相手にせず、私は、そのどろぼうの牛豚のような黙殺の非礼の態・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・土神は今度はまるでべらべらした桃いろの火でからだ中燃されているようにおもいました。息がせかせかしてほんとうにたまらなくなりました。なにがそんなにおまえを切なくするのか、高が樺の木と狐との野原の中でのみじかい会話ではないか、そんなものに心を乱・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・とつづけざまにべらべら挨拶しました。「お早う。」私たちは手を握りました。二人の子供の助手も、両手を拱いたまま私に一揖しました。私も全く嬉しかったんです。ニュウファウンドランド島の青ぞらの下で、この叮重な東洋風の礼を受けたのです。 陳・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫