・・・チュンセはまるで鉄砲丸のようにおもてに飛び出しました。おもてはうすくらくてみぞれがびちょびちょ降っていました。チュンセは松の木の枝から雨雪を両手にいっぱいとって来ました。それからポーセの枕もとに行って皿にそれを置き、さじでポーセにたべさせま・・・ 宮沢賢治 「手紙 四」
・・・この世界が、はじめ一疋のみじんこから、だんだん枝がついたり、足が出来たりして発達しはじめて以来、こんな名判官は実にはじめてだとみんなが申しました。 シャァロンというばけものの高利貸でさえ、ああ実にペンネンネンネンネン・ネネムさまは名判官・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・それに抵抗して日本の理性と学問、文化の自立を主張する動きは、全日本の規模で全学問の分野を包含した。生きる自由、学び、働き、良心に従って行動する自由とともに、人権の一つとして奪われた理性を回復しようとする日本の青春の奮闘がある。すべての人々に・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・文学は常に、文章道の末枝へ墜落する危険を一方に目撃しつつ、一方にそれとたたかい、批判してゆく力を内部的に包含しています。音楽が風や濤声や木々の葉ずれのような自然現象ではなくて、社会生活を営む人間の声であることが深く深く理解され、身をもって経・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・五ヵ年計画で八歳からの全国学齢児童の国庫負担による就学は、勿論、各民族共和国、自治国を包含してのことだ。 階級的技術を高めろ! というスローガンは、ソヴェト同盟全土に響き、実現されつつある。党婦人部は、労働組合と協力で、各民族に独特な手・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・よく食堂のテーブルのところで方眼紙のノートを出していろいろプランを描いて居りました。尤も父の持っていたスタイルは私の好みとは大変異っていましたが。そして、私にのこされた愛情のこもった遺物[自注18]は、私の家を建ててくれると云ってよろこんで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・日本人と云う総称が、其の裡に無数の箇性的差異を包含して居る通り、人類と云う響は又其の内に、箇々の民族的差異をも暗示して居ります。 其故私は、国民的名称の差異に意識無意識に左右された批評は好みません。私は米国人とその名を以て、その約束的符・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本と中国の新しい民主主義が歴史の深いたたみ目をもっていて、民主化という一つの言葉の中に、ヨーロッパの二世紀と今日のもっとも前進した民主主義とを包含しなければならないという歴史を否定しないならば、自我の問題も世界史のこの雄大なプログラムにし・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・自身の生きる人民階級の歴史的達成の方向・方法のうちに包含される人間の社会現象としての文学として自然に感じとれない。これはこれまでの日本人民が、有識人でさえも、自分で自分の社会を進展させ、破壊し、建設してきた経験がなく、社会的な自主的なやりか・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・偉大な芸術は、総てを包含するものだ」と云われた。 すぐ前後の社会的事情を考え、母の心持に潜むものを感じ、父上に気の毒のような、単純さが滑稽のような心持になった。 本当に親は子を愛す。然し子を殺すものも親だ。・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
出典:青空文庫