・・・ 聖人の本意は、後世より測り知るべからざるものとして、しばらくこれを擱き、その聖人の道と称して、数百年も数千年も、儒者のこれを人に教えて、人のこれを信じたる趣をみれば、欠点、はなはだ少なからず。就中、その欠点の著しきものは、孝悌忠信、道・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・即ち女子の品位を維持するの道にして、大丈夫も之に接して遜る所なきを得ず。世間に所謂女学生徒などが、自から浅学寡聞を忘れて、差出がましく口を開いて人に笑わるゝが如きは、我輩の取らざる所なり。一 既に優美を貴ぶと言えば、遊芸は自から女子社会・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・生計不如意の家は扨置き、筍も資力あらん者は、仮令い娘を手放して人の妻にするも、万一の場合に他人を煩さずして自立する丈けの基本財産を与えて生涯の安心を得せしむるは、是亦父母の本意なる可し。古風の教に婦人の三従と称し、幼にして父母に従い、嫁して・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・で、自分は自分の標準に依って訳する丈けの手腕がないものと諦らめても見たが、併しそれは決して本意ではなかったので、其の後とても長く形の上には、此の方針を取っておった。 処で、出来上った結果はどうか、自分の訳文を取って見ると、いや実に読みづ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・たいていわざと言わずにあるところに、本意は潜んでいるものである。」 マドレエヌの手紙の中で、一番注意してみなくてはならぬ処は二白である。法律顧問を託する女が媚を呈するような態度で、顔がどうなったの、姿がどうなったのと云うはずが無い。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・汝等というは、元来はわれわれ梟や鵄などに対して申さるるのじゃが、ご本意は梟にあるのじゃ、あとのご文の罪相を拝するに、みなわれわれのことじゃ。悪業というは、悪は悪いじゃ、業とは梵語でカルマというて、すべて過去になしたることのまだ報となってあら・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・古風なものの考えかたでは、頭脳の労作と筋肉的労作との間に、人間品位の差があるようにあつかわれた。社会のための活動の、それぞれちがった部門・専門、持ち場というふうには感じられていなかった。その古風さに、近代の出版企業が絡んだ。出版企業は、作家・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 縞の小さいエプロンをかけた彼女が食器を積んだ大盆を抱えて不本意らしく台所に出てゆく姿を見送ると、彼は思わず眉を顰めて頭を振った。 都合の悪いのは今朝に限って、寝室にいる彼に明るい夜の台所の模様がはっきり、手にとるように判ることであ・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ ――この愉快な夜、名誉ある勤労婦人に向って不愉快なことを話すのは不本意であります。しかし、タワーリシチ! ソヴェト五ヵ年計画を完成するために、我々はまだ自己批判すべき多くのものを持っている。今ここに集っている婦人の中にはおそらく数百人・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・日本人が今日、当然もつべき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳というものが、どういうものであるかをさえ知らさないように導いて来た体制を、今なお明瞭・・・ 宮本百合子 「その源」
出典:青空文庫