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・・・が、不義の対手の忘恩者を赦した沼南の大雅量は直接事件に交渉したものの外は余り知らない。使用人同様の玄関番の書生の身分で主人なり恩師なりの眼を窃んでその名誉に泥を塗るいおうようない忘恩の非行者を当の被害者として啻に寛容するばかりでなく、若気の・・・
内田魯庵
「三十年前の島田沼南」
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・・・客観的に描かれてみれば誰の目にも、そういう命令の与えかたのむごさははっきりしたのだけれども、そのむごさが鮮明に感銘されればされるほど、そういうものを書くのは忘恩的だという判断が、わたしに向けられた。そんなにその頃は、絶対性が卒業生の気分を支・・・
宮本百合子
「歳月」