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・・・、諸作家の書簡集を読み、そこに作家の不用意きわまる素顔を発見したつもりで得々としているかも知れないが、彼等がそこでいみじくも、掴まされたものはこの作家もまた一日に三度三度のめしを食べた、あの作家もまた房事を好んだ、等々の平俗な生活記録にすぎ・・・
太宰治
「もの思う葦」
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・・・逗留七日、積る話はそれからそれと尽きなかったが、遂に一言も亡児の事に及ばなかった。ただ余の出立の朝、君は篋底を探りて一束の草稿を持ち来りて、亡児の終焉記なればとて余に示された、かつ今度出版すべき文学史をば亡児の記念としたいとのこと、及び余に・・・
西田幾多郎
「我が子の死」