・・・ そこで、宗吉が当時寝泊りをしていたのは、同じ明神坂の片側長屋の一軒で、ここには食うや食わずの医学生あがりの、松田と云うのが夫婦で居た。 その突当りの、柳の樹に、軒燈の掛った見晴のいい誰かの妾宅の貸間に居た、露の垂れそうな綺麗なのが・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・父に連れられて「松田」で昼食を食ったのもそのころであったように思う。玉子豆腐の朱わんのふたの裏に、すり生姜がひとつまみくっつけてあったことを、どういうわけか覚えている。父が何かしらそれについて田舎と東京との料理の比較論といったようなものをし・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・佐多稲子、松田解子、平林たい子、藤島まき、壺井栄などがそうである。これらの婦人作家は、みな少女時代から辛苦の多い勤労の生活をして来て、やがて妻となり母となり、本当に女として生きてゆく希望、よろこび、その涙と忍耐とを文学作品に表現しようとして・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ 私はパパ、ママはいけないという松田文相の小学放送の試みや、ラジオにでるにはなかなかお金がかかるんでねえと打ちかこった或る長唄の師匠の言葉などを思い出しながら、その声をきいているのであった。 聴取料が五十銭になったことは、ラジオに対・・・ 宮本百合子 「或る心持よい夕方」
・・・という長篇小説をかいた元隆章閣の人などもはいっているし、婦人作家では私のほかにいね子[自注16]、松田さん[自注17]なども居ります。藤島まきという作家も出ました。文学におけるリアリズムの問題が、はじめ妙な傾向をもってトリビアリズムと混同し・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・今日作品を書いている佐多稲子、平林たい子、松田解子、壺井栄など。これらの婦人作家は、それまでの婦人作家とちがって、貧困も、勤労の味も、女としての波瀾も経験した人々であった。そういう人達によって、本当に社会矛盾を認識し、人間として伸びようとす・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・『婦人文芸』が新年号から一つの特色として世界婦人作家伝の連載を約束し、先ず中国、朝鮮婦人作家の紹介を試みていることは、非常にふさわしく、又よろこばしい。松田解子氏の長篇小説「田舎者」第一回が発表されはじめたこと、遠山葉子氏が西鶴、近・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ さっき横浜の方から宮本百合子の作品の話がでて、宮本百合子の作品は、多くの場面で話題になっているが、松田解子の作品については多く語られない、松田解子の文学の庶民的なよさは周囲の初歩的な文学愛好家のグループによい影響を与えているのにとの話・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・それが松田解子であった。秋田の鉱山に生い立った彼女は、プロレタリア文学運動の時代、婦人作家として一定の成長をとげた技量を、現在の多面な民主的政治的活動のうちに結実させようとしている小説「尾」そのほか多くのルポルタージュ、民主主義文学について・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・男の子を膝の上に抱いて、その子の頬っぺたと同じ赤い丸い頬っぺたをした松田解子。 火みたいな速口で、活溌に、ときにはやや見当はずれに質問動議を連発する堀田昇一。 他の多くの同志のほかに――妙な者が会場に混っている。スパイと警官だ。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫