・・・私は男にしろ、女の人にしろ、人生に其の人としての感情、見方をはっきり持っているのを見ると、心を惹かれ興味を覚えます。情感のゆたかな深い点に触れ得る人は好しいものです。〔一九二四年五月〕・・・ 宮本百合子 「異性の何処に魅せられるか」
・・・ ソヴェトの作家たちは、ロシア・プロレタリア作家連盟を中心として、彼等が社会主義の敵か味方かを決議しようとする大衆の前に立ったわけである。「大衆の中へ!」というスローガンのかかげられていた時代に書かれた作品としてはマヤコフスキーの「・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 家康が武田の旧臣を身方に招き寄せている最中に、小田原の北条新九郎氏直が甲斐の一揆をかたらって攻めて来た。家康は古府まで出張って、八千足らずの勢をもって北条の五万の兵と対陣した。この時佐橋甚五郎は若武者仲間の水野藤十郎勝成といっしょに若・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ロダンは花子の小さい、締まった体を、無恰好に結った高島田の巓から、白足袋に千代田草履を穿いた足の尖まで、一目に領略するような見方をして、小さい巌畳な手を握った。 久保田の心は一種の羞恥を覚えることを禁じ得なかった。日本の女としてロダンに・・・ 森鴎外 「花子」
・・・もちろん原で戦うのじゃから、敵も味方もその時は大抵騎馬であッた。が味方の手綱には大殿(義貞が仰せられたまま金鏈が縫い込まれてあッたので手綱を敵に切り離される掛念はなかッた。その時の二の大将の打扮は目覚ましい物でおじゃッたぞ」「一の大将も・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ これは作家の生活を中心とした見方の一例にまで書くのであるが、『春琴抄』という谷崎氏の作品を読むときでも、私も人々のいうごとく立派な作品だと一応は感心したものの、やはりどうしても成功に対して誤魔化しがあるように思えてならぬのである。題材・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・それは、われわれ人間が世界を見る場合、唯心論的に見るべきか、唯物論的に見るべきかと云う二つの見方にちがいない。此処でわれわれの完全に共通した問題は分裂する。 われわれは前に、その正邪に拘らず、資本主義を認め、社会主義を認めた。この相・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・この見方はなかなか当たっていると思われる。室町時代の文化を何となく貶しめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の偏見であって、公平な評価ではない。我々はよほどこの点を見なおさなくてはなるまいと思う。 室町時代の中心は、応永永享のころである・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・やがて、家風が町人化し、口前のうまい、利をもって人々を味方につける人が、はばを利かしてくる。百人の内九十五人は町人形儀になり、残り五人は、人々に悪く言われ、気違い扱いにされて、何事にも口が出せなくなる。五人のうち三人は、ついに町人形儀と妥協・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・四 ところで内部に突き入ろうとする衝動を感じない人たちは、きわめて常識的な、普通一般の見方をもって人間の内部を片付けてしまう。そうしてただ外部のさまざまな変化や状態にのみ注意を集中する。彼らの「自然に即け」という意味は、右の・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫