・・・ Blanqui の夢 宇宙の大は無限である。が、宇宙を造るものは六十幾つかの元素である。是等の元素の結合は如何に多数を極めたとしても、畢竟有限を脱することは出来ない。すると是等の元素から無限大の宇宙を造る為には、あらゆ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そしてその苦しみと無限の淋しみとを、幾枚もの画に描き上げた。風景や静物にもすばらしいのはあるが、その女の肖像画にいたっては神品だというよりほかに言葉がない。瀬古 おいおいそれは誰の事だい。ともちゃん、おまえ覚えがある。花田 まあ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・劫初以来人の足跡つかぬ白雲落日の山、千古斧入らぬ蓊鬱の大森林、広漠としてロシアの田園を偲ばしむる大原野、魚族群って白く泡立つ無限の海、ああこの大陸的な未開の天地は、いかに雄心勃々たる天下の自由児を動かしたであろう。彼らは皆その住み慣れた祖先・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・されども渠等は未だ風も荒まず、波も暴れざる当座に慰められて、坐臥行住思い思いに、雲を観るもあり、水を眺むるもあり、遐を望むもありて、その心には各々無限の憂を懐きつつ、てきそくして面をぞ見合せたる。 まさにこの時、衝と舳の方に顕れたる船長・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・ 富士のすそ野を見るものはだれもおなじであろう、かならずみょうに隔世的夢幻の感にうたれる。この朝予は吉田の駅をでて、とちゅう畑のあいだ森のかげに絹織の梭の音を聞きつつ、やがて大噴火当時そのままの石の原にかかった。千年の風雨も化力をくわう・・・ 伊藤左千夫 「河口湖」
・・・悲しくもあり楽しくもありというような状態で、忘れようと思うこともないではないが、寧ろ繰返し繰返し考えては、夢幻的の興味を貪って居る事が多い。そんな訣から一寸物に書いて置こうかという気になったのである。 僕の家というのは、松戸から二里ばか・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・アレほど我を忘れて夢幻にするような心地のしたのはその後にない。短篇ではあるが、世界の大文学に入るべきものだ。 露伴について語るべき事は多いが、四枚や五枚ではとても書尽されないから、今はこれだけで筆を擱く。・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・ 第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼にもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸の主かならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・どの子供も、そう思うのを見れば、母の愛ばかりは、無限であるということが出来る。現在に於て、その力が大なるばかりでなく、たとえ母が死んでしまった後でも愛だけは残るのであります。そして、いつまでも、子供を見守っているのです。どれ程、その力が強く・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・足の爪尖まで透き通って見ることが出来る。無限に湧き出ている礦泉は、自然力の不思議ということを思わせる。常に折よく、他に誰も入っていない時が多かった。独り眼を閉じて、何を考えるともなしに淋しい気持を和げようとしている。眼を開くと、窓際に突き出・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
出典:青空文庫