・・・その代り、百円分の薬を無代進呈する。 ……いきなり二百円を請求された支店長たちは、まるで水を浴びた想いに青く濡れた。六百円の保証金をつくるのさえ、精一杯だったのだ。それを、この上どこを叩いて二百円の金を出せというのか。しかし、出さねば、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・文献無代贈呈。』――『寄席芝居の背景は、約十枚でこと足ります。野面。塀外。海岸。川端。山中。宮前。貧家。座敷。洋館なぞで、これがどの狂言にでも使われます。だから床の間の掛物は年が年中朝日と鶴。警察、病院、事務所、応接室なぞは洋館の背景一つで・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・、いんちきの万年筆を、あやしげの口上でのべて売っているのだが、なにせ気の弱い、甘えっ子だから、こないだも、泉法寺の縁日で、万年筆のれいの口上、この万年筆、今回とくべつを以て皆さんに、会社の宣伝のため、無代進呈するものであります、と言って、そ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・もっとも、有りふれた「無題」とか「断片」とかいう種類のものにすればいちばん無難ではあるが、それもなんだかあまり卑怯なような気がする。いろいろ考えているとき座右の楽譜の巻頭にあるサン・サーンの Rondo Capriccioso という文字が・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 五月二日ソヴェトの勤労者達は全然無代でこれらの芝居を見るのである。 特別にこの夜のために脚本が選定されるということはない。平常から各劇場の上演目録は特別の統制機関によって選ばれている。 いつもその時ソヴェトの全勤労者がおかれて・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・「橋梁架設工事」「生活の脈動」「町工場」「シベッチャの山峡」「下水工事場」「三河島町風景」「無題」などの中に、いくつか印象のつよい作がありました。山田清三郎が獄中からよこす歌には何とも云えぬ素直さ、鍛えられた土台の上に安々としている或るユー・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・劇場は、だからプロレタリアート農民の文化的生活の切りはなせない一部分として、いつも座席の何割かは前もって産別労働組合を通じ無代で勤労者のために保留している。 工場の労働者、集団農場員、学生はときどきこういうタダ切符を組合から貰って芝居見・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・からの切符配分」という表だ。レーニングラード市内各区の、小学校・ピオニェール分隊・児童図書館・子供の家・工場学校は、それぞれきまった日に、この「若い観衆の劇場」から無代の切符配分をうける、その予告なのである。 親たちは大人の劇場へ職業組・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 毎年盛んなメー・デーのデモが行われるが、翌日五月二日の祭りには、あらゆる興行物が無代でスッカリ勤労大衆のために解放されるのだ。 そして丈夫に 医業国営=誰でも無料で診察をうけ、入院出来るようにというのがソ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・て居る紫陽花に悪魔の使か黒蝶が謎のとぶよにとんで居る、ヒーラ、ヒーラ、ヒーラわきにくもめが白銀の糸でとり手を作ってるヒーラヒーラ黒蝶が紫陽花にとぶ夏の夕 〔無題〕カガヤケ かがやけ可愛い御・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫