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・・・―― 箸をとったら、鰻は、まるで油紙のようにくさい。危く自分は感傷的になりかかった。 Aが、又蕎麦屋へ行かなければならなかった。夕飯を、兎も角済したのは九時過ぎて居たろうか。 引越の前から工合が悪かったので、自分は、又、翌日から・・・
宮本百合子
「小さき家の生活」
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・・・ 家へ走り帰ると直ぐ吉は、鏡台の抽出から油紙に包んだ剃刀を取り出して人目につかない小屋の中でそれを研いだ。研ぎ終ると軒へ廻って、積み上げてある割木を眺めていた。それからまた庭に這入って、餅搗き用の杵を撫でてみた。が、またぶらぶら流し元ま・・・
横光利一
「笑われた子」