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・・・これから手紙を持たしてやって、電話じゃアだめだよ、そして明朝午前八時までに御来車を仰ぐとでもしておこう。」「よし、手紙をすぐ持たしてやろう」と大森は巻き紙をとってすらすらと書きだした。その間に客は取り散らしてあった書類を丁寧に取りそろえ・・・
国木田独歩
「疲労」
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・・・ ほとんど同時に、やはり国立癩療養所である多磨全生園の文芸協会が編輯した『癩者の魂』も出版されている。これは、大人の作品であり『春を待つ心』とは全然ちがう。『春を待つ心』が大人にならない少女の心によって自然の日が照るように自然の雨が降る・・・
宮本百合子
「病菌とたたかう人々」