・・・ 又 人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦莫迦しい。重大に扱わなければ危険である。 又 人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかし兎に角一部を成している。 ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・殊に主人公の思いあがった奇々怪々の言動は、落丁の多いエンサイクロペジアと全く似ている。この小説の主人公は、あしたにはゲエテを気取り、ゆうべにはクライストを唯一の教師とし、世界中のあらゆる文豪のエッセンスを持っているのだそうで、その少年時代に・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・文学常識の急激な落潮、日本文化の低下の激甚さはもっと注目されなければならなかった本年の問題である。 評論のそういう努力の方向にかかわらず、そこにも困難と混迷の時代的な色がある。例えば作家研究を飽く迄文学の中で行おうとする正常な意企をもつ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
出典:青空文庫