・・・ この両作家の居られた時代を考えれば、それが必して智識の浅薄であったとか、研究の足りない頭であったとかは云われないのである。両氏が居られたのは明治三十年前後で、一葉女史の世を去られたのは明治二十九年、紅葉山人は明治三十六七年に、没せられ・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・ 尾崎、小林両氏の私小説論は、「純文学であって通俗小説でもある」純粋小説論の成立点を技術的には近代人の自意識において解決しようとしている横光利一氏が、却って、近代日本における複雑独自な自我の消長史を私小説の推移の裡に見ることが出来ないで・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・夜、青山の通を吉田、福岡両氏をたずね、多く屋根の落ちかかった家を見る。ひどい人通りで、街中 九日 英男、荷物を持って自転車で来る。夜豪雨。ヒナン民の心持を思い同情禁じ得ず。 A、浅草、藤沢をたずぬ、A、浅草にゆく。さいの弟の・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・夢のように、いつの間にか今日の名残の春鶯囀も終って、各々の前には料紙、硯石箱が置かれた、題は「花の宴」 頭を深くたれて考え込むものもあれば色紙の泣きそうな手で遠慮もなくのたらせるものもある。書かれる可(は三十一文字だか四文字だか分らない・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ したがのう、わしは三日前に使者の身なりと料紙だけはまことに見事な手紙をうけとったのじゃ。法 中実は?王 まことにはや年寄った女子の背むしなのより見にくいものでの。 小姓に申しつけて直ぐ裂いてしまって燃してしもうたほどじ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ルザックの略歴さえ知ることが出来ないし、更に昨今の流行とてらし合せて私達の感想を更に一層刺戟するのは、一九三〇年、プロレタリア芸術運動が高まって綜合雑誌『ナップ』が発刊されていた頃、山田清三郎・川口浩両氏によって編輯されたプロレタリア文芸辞・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・飯田、山本両氏について、検事局は「往来危険罪で処断」と最悪の場合は死刑までふくむ法文を引用して見解を示している。 ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・そして誰の目にも明らかなように、反動的な動機から呈出されている両氏のいい分のかげに隠されているものに対して、注意をひかれたのであった。何故なら、もし一般の人々の感情が、ひと頃のように、プロレタリア作家の間でさえいわゆる転向しない者は間抜けの・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・法学博士穂積重遠、中川善之助両氏の責任監輯で、各巻第一部史論篇、第二部法律篇全部で五巻十冊の予定である。内容は婚姻。離婚。親子。家。相続。各巻をなしていずれも、今日に至るまでの社会の歴史の発達の面からの史論と、現在行われているそれぞれに関係・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・このことは、どんな猟師も知っている。私たち婦人は、生きることを欲している。美しく幸福なわが日本に、よろこびをもって生きることを望んでいるのである。 人まかせにして、今日の破局が生じている以上、私たちが、もう人まかせにはしておけないと思っ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫