・・・どこからか小梨を貰ったと云って先生はみんなに分けた。ぼくたちはそこで地図を塗りなおしたりした。先生はその場所では誰のもいいとも悪いとも云わなかった。しばらくやすんでから、こんどはみんなで先生について川の北の花崗岩だの三紀の泥岩だのまではいっ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・植村婆さんは、若い其等の縫いてがいやがる子供物の木綿の縫いなおしだの、野良着だのを分けて貰って生計を立てて来たのであった。沢や婆のいるうちは、彼女よりもっと年よりの一人者があった訳だ。もっと貧しい、もっと人に嫌がられる者があった。その者を、・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 木村は為事をするのに、差当りしなくてはならない事と、暇のある度にする事とを別けている。一つの机の上を綺麗に空虚にして置いて、その上へその折々の急ぐ為事を持って行く。そしてその急ぐ為事が片付くと、すぐに今一つの机の上に載せてある物をその・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・を、それだけ妹の方に分けられはすまいかと、今さら不安な気持が起って来ると、自分よりも先に医者を迎えに行ったお留の仕打ちに微かな嫉妬を感じて来た。「何ぞ欲しいものはないか?」とお霜は安次に訊いた。「結構や。」「お前この間、銭持って・・・ 横光利一 「南北」
・・・長者夫妻は非常な嘆きに沈んで、鷲が飛んで行ったその深山の中へ、子をさがしに分け入った。 玉王をさらった鷲は、阿波の国のらいとうの衛門の庭のびわの木に嬰児をおろして、虚空に飛び去った。衛門は子がなかったので、美しい子を授かったことを喜び、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫