・・・ 不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。 ――それをそのままにしておいて私は、なに喰わぬ顔をして外へ出る。―― 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そし・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・洋とちがった環境があり、日本人には日本人の特有な目があるのであるからもし日本の映画製作者がほんとうの日本人としての自分自身の目を開いてわれわれの環境を物色したら、西洋人には到底考えつかないような新しいアイディアがいくらも浮かびそうなものだと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・どんな行きつまった世の中でもオリジナルなアイディアさえあればいくらでも金儲けの道はあるというのが現代のヤンキー商人のモットーであるが、この事を元禄の昔に西鶴が道破しているのである。木綿をきり売りの手拭を下谷の天神で売出した男の話は神宮外苑の・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・机の前や実験室では浮かばないようないいアイディアが電車の内でひょっくり浮き上がる場合をしばしば経験する。「三上」の三上たるゆえんの要素には、肉体の拘束から来る精神の解放というもののほかにもう一つの要件があると思われる。それはある適当な感・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
出典:青空文庫