・・・田園調布のアパートの二部屋を借りて、一つは居間、一つはアトリエに使っていて、田島は、その水原さんが或る画家の紹介状を持って、「オベリスク」に、さし画でもカットでも何でも描かせてほしいと顔を赤らめ、おどおどしながら申し出たのを可愛く思い、わず・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・一週間にいちどずつ、近所の中泉花仙とかいう、もう六十歳近い下手くそな老画伯のアトリエに通わせた。さあ、それから褒めた。草田氏をはじめ、その中泉という老耄の画伯と、それから中泉のアトリエに通っている若い研究生たち、また草田の家に出入りしている・・・ 太宰治 「水仙」
・・・煙草は吸うが、酒は飲まない。アトリエと旅行。仙之助氏の生活の場所は、その二つだけのように見えた。けれども画壇の一部に於いては、鶴見はいつも金庫の傍で暮している、という奇妙な囁きも交わされているらしく、とすると仙之助氏の生活の場所も合計三つに・・・ 太宰治 「花火」
・・・もったいないほど立派なアトリエも、ついている。五年まえに父に死なれてからは、母は何事に於ても、杉野君の言うとおりにしている様子である。杉野君の故郷は北海道、札幌市で、かなりの土地も持っているようであるが、母は三年前、杉野君の指図に従い、その・・・ 太宰治 「リイズ」
・・・ 一八九〇年、再び故郷にかえって来た二十三歳のケーテは、一つのアトリエをもち、若い婦人画家には珍らしい黒と白との世界に、ケーニヒスベルクの貧しい人々や港の人々の生活を再現しはじめた。これらの人々の生活は、小さい時分からケーテの身近なもの・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・こんなアトリエのうそでごまかして。ブリュウゲルの写真版のいいのがあってペンさんが貸してくれ、台紙に入れて今日出来上りました。この画家の健全な面が発揮された絵で収穫の図です。色彩も非常に新鮮です。お目にかけられないのがざんねん。 十一・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 父が最後の二三年、楽天氏のアトリエで漫画を折々描いていたということを、ふと楽天氏が洩らされたことがありました。シャツだけになって、大した元気で一時間ばかり描いて行かれますよ、というお話でしたが、父はそのことについては何も云わず、作品と・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・おとなしい門の上に古風な四角いランプ型の門燈が立てられて、アトリエらしい室が見えた。門のすぐわきにバスの停留場があった。 空襲ではそこも焼かれた。翌る朝、鼻をつくやけあとの匂いとまだ低く立ちこめている煙の間に、思いがけず鴎外の大理石胸像・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・作者猪熊弦一郎氏はアトリエへ訪ねて来た雑誌記者に向ってその絵は「三人の異った人間の性格を描き分けようと云うのです。右の男は田舎の素封家の主人、真中はワイフ、左は職業婦人。この三人の気分がのっていますかね」と語りながらその絵と並んだ自身の写真・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・を主題として交響楽を創り、ドラクロアのアトリエではユーゴオの小唄が口誦まれた。そして、ユーゴオ、ゴオチェ、メリメのような作家たちは、創作の間に絵を描いた。実に彼等は「すべての芸術において美しい色彩や情熱や文体を」ねらったのであった。 け・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫