・・・「むかしのアルバムを、繰りひろげて見ているような気がします。人間は変っていませんが、服装は変っていますね。その服装を、微笑ましい気で見ている事もあります。」「何か、主義、とでもいったようなものを、持っていますか。」「生活に於いて・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・この助役さんは貴方へ一週間にいちどずつ、親兄弟にも言わぬ大事のことがらを申し述べて、そうして、四週間に一度ずつ、下女のように、ごみっぽい字で、二、三行かいたお葉書いただき、アルバムのようなものに貼って、来る人、来る人に、たいへんのはしゃぎか・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・女の友達というものは、ちょっとでも親しくなると、すぐにアルバムを見せ合うものでございますが、いつか、芹川さんは大きな写真帖を持って来て、私に見せて下さいましたけれど、私は芹川さんの、うるさいほど叮嚀な説明を、いい加減に合槌打って拝聴しながら・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・今夜は一つ、私のアルバムをお見せしましょう。面白い写真も、あるかも知れない。お客の接待にアルバムを出すというのは、こいつあ、よっぽど情熱の無い証拠なのだ。いい加減にあしらって、ていよく追い帰そうとしている時に、この、アルバムというやつが出る・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・あと七景を決定しようと、私は自分の、胸の中のアルバムを繰ってみた。併しこの場合、芸術になるのは、東京の風景ではなかった。風景の中の私であった。芸術が私を欺いたのか。私が芸術を欺いたのか。結論。芸術は、私である。 戸塚の梅雨。本郷の黄昏。・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 鶴は洗面所で嗽いして、顔も洗わず部屋へ帰って押入れをあけ、自分の行李の中から、夏服、シャツ、銘仙の袷、兵古帯、毛布、運動靴、スルメ三把、銀笛、アルバム、売却できそうな品物を片端から取り出して、リュックにつめ、机上の目覚時計までジャンパ・・・ 太宰治 「犯人」
・・・かつて写真屋のアルバムで知らぬ人の顔について同じような経験をした事はあったが、生まれて四十余年来自分の肩の上についている顔についてこんな経験をしようとは思わなかった。 これから思うと刑事巡査が正面の写真によって罪人を物色するような場合に・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・ 土人の売りに来たものは絵はがき、首飾り、エジプト模様の織物、ジェルサレムの花を押したアルバム、橄欖樹で作った紙切りナイフなど。商人の一人はポートセイドまで乗り込んで甲板で店をひろげた。 十時出帆徐行。運河の土手の上をまっ黒な子供の・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・の石膏製の像と「アルバム」をやろうと云うからありがとうといって貰った。それから「シェクスピヤ」の墓碑の石摺の写真を見せて、こりゃ何だい君、英語の漢語だね、僕には読めないといった。やがて先生は会社へ出て行った。これから吾輩は例の通り「スタンダ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・三人の子供を抱いて留守を暮す若い母は、その一枚一枚を大切にとっていて、大きいアルバムに二つ、小さいの二つほどにぎっしりはめこまれて居ます。 父は東京に住んでいた家族にこのようにして書いていたばかりでなく、福島県の開成山に隠棲していた老母・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫