・・・素になり、お能はその極致だという結論に達していたが、しかし、純粋小説とは純粋になればなるほど形式が不純になり、複雑になり、構成は何重にも織り重って遠近法は無視され、登場人物と作者の距離は、映画のカメラアングルのように動いて、眼と手は互いに裏・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・とうとうおしまいには日頃から大好きだったアングルの橙色の重い本までなおいっそうの堪えがたさのために置いてしまった。――なんという呪われたことだ。手の筋肉に疲労が残っている。私は憂鬱になってしまって、自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めてい・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・であり、従ってまた英の angle とも関係しているらしい。ペルシアでは lngar である。サンスクリトの lngala は鋤であるがしかし錨のような意味もあるらしい。同時に membrum virile の意味もある。ロシアの錨はヤーコ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・やがて、白い上っぱりを着た写真師が助手をつれて入って来て、ベッドに仰むきに臥ている自分の右側のおなかの傷に向って高いところからアングルをとって写してゆく。もういいのかと思ったら富田さんがいそいで来て、木村先生が御自分でいらっしゃってからおと・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
出典:青空文庫