・・・ 鼎をかぶって失敗した仁和寺の法師の物語は傑作であるが、現今でも頭に合わぬイズムの鼎をかぶって踊って、見物人をあっと云わせたのはいいが、あとで困ったことになり、耳の鼻ももぎ取られて「からき命まうけて久しく病みゐる」人はいくらでもある。・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・これが見られる間は、日本人は西洋人にはなりきれないし、西洋の思想やイズムはそのままの形では日本の土に根をおろしきれないであろうとは常々私の思うことである。 日本人の遊楽の中でもいわゆる花見遊山はある意味では庭園の拡張である。自然を庭に取・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ マルキシズムその他いろいろなイズムの立場から蜜蜂に注文をつけるのは随意であるが、蜜蜂はそんな注文を超越してやっぱり同じように蜜を集めるであろう。そうして忙しい蜜蜂はおそらくそういう注文者を笑ったりそしったりする暇すらないであろうと思わ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・そうでなくては成り立ちそうもない学説やイズムがわれわれの目に触れるほどだから。 三越の四階に食堂がある、たしか以前は小さな室であったのが、その後拡張されて今のような大きな部屋になったと思う。ちょっと清潔に簡便に食欲を満足させ、そうして時・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ いろいろなイズムも夏は暑苦しい。少なくも夏だけは「自由」の涼しさがほしいものである。「風流」は心の風通しのよい自由さを意味する言葉で、また心の涼しさを現わす言葉である。南画などの涼味もまたこの自由から生まれるであろう。 風鈴の音の・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面な男が束にして頭の抽出へ入れやすいように拵えてくれたものである。一纏めにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫になったり、解くのに手数がかかったりするので、いざという・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・とかいふ言葉がないのは不思議であるが、実際ニイチェの思想の中には、多くの矛盾した対立があり、且つ複雑した多要素が混入して居るので、単純にこれを一つの概念でイズムに形態化することができないのである。人々は各ニイチェの多様質の宇宙の中から、夫々・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・文学の方で最近の傾向はシンボリズムとか、ミスチシズムとか云うのだが、イズムの中に彷徨いてる間や未だ駄目だね。象徴主義で云う霊肉一致も思想だけで、真実一致はして居らんじゃないか。で、私は露語の所謂ストリャッフヌストと云ったような時代……つまり・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ 平田イズムが当時にあっていかに発生し、いかに半封建の新興ブルジョア勢力に利用されたか、そこからどの位の大衆の犠牲が生じたか、このことは十分くまなく、現代性をもって、貴方の獄中での潜勢力を傾けて解剖されるべき項だと思います。ここは面白い・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫