・・・ミスラ君は永年印度の独立を計っているカルカッタ生れの愛国者で、同時にまたハッサン・カンという名高い婆羅門の秘法を学んだ、年の若い魔術の大家なのです。私はちょうど一月ばかり以前から、ある友人の紹介でミスラ君と交際していましたが、政治経済の問題・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・そして、間もなく帰って来ると、「わし共は、カルカッタへ行かんければならないよ。」と云い渡しました。 家の者は、此知らない土地へ旅立つ為、種々仕度を調えました。スバーの心は、まるで靄に包まれた明方のように涙でしめりました。近頃、次・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・そんな事から見いだされてカルカッタ大学の一員になったのが踏み出しだそうである。始めのうちは振動の問題や海の色の問題や、ともかくも見たところあまり先端的でない、新しがり屋に言わせれば、いわゆる古色蒼然たる問題を、自分だけはおもしろそうにこつこ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ホンコンやカルカッタ辺の支邦人街と同じ空気が此処にも溢れていた。一体に、それは住居だか倉庫だか分らないような建て方であった。二人は幾つかの角を曲った挙句、十字路から一軒置いて――この一軒も人が住んでるんだか住んでいないんだか分らない家――の・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫