・・・それから一番痛快なのはまっすぐに行ってそのまままっすぐに戻る位ひどくカーブを切って廻るときだ。まるで身体が壊れそうになってミシミシ云うんだ。光の骨までカチカチ云うぜ。」 ポウセ童子が云いました。「チュンセさん。行きましょうか。王様が・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・汽車がカーブにかかるまで赤いジャケツが見えました。 昨夜は何時に眠ったとお思いになりますか? 六時半よ。そしてけさ、六時半。納豆、野菜など、なかなか美味です。きょうテーブルをこしらえて貰います。 十月十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・Bはよく説明してもらいましたが、脳炎などの後、本当に失明してしまうのは、視神経が萎縮してしまうので、眼底をみれば神経の束が眼球に入ってきているところに細い血管が集っていて、それが独特なカーブを書いてそのカーブの深さで視神経が萎縮して低くなっ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五間幅の道路は、三四町まっすぐに延びて、一つ大きくカーブしたところから、ダラダラ坂になって、ズーッと下の温泉の中央まで導かれるはずなのである。 もうそろそろ昼頃かと思う時刻になると、彼の仲間として一かたまりになっている七八人の者の・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・あの辺一帯は全く新興地帯で、トラックの往復もはげしくなったので、島田川の堤の上の道幅がカーブのところではすこしずつひろくなりました。島田市の先からもうチラホラ朝鮮の人のバラックが建っていて、夕方など通りがかると夕餉の煙と明笛の音がきこえたり・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・ その男は油ぎった何とも云われないいや味な様子をして軽いカーブを廻る時、一寸止った時、そんな時わざわざよろける様にしては私のひざを小突まわすその意味が恐ろしいほど私に分りました。 私はその男の心をすっかりよみつくしてしまった様な顔色・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・夜鴉が奇怪なカーブを描きながら、花壇の上を鋭い影のように飛び去った。彼は心の鎮むまで、幾回となく、静な噴水の周囲を悲しみのように廻っていた。 十一 その翌朝早くから彼の妻の母が来た。彼女は娘の顔を見ると泣き始めた・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫