・・・は、貫一という当時の一高生が、ダイアモンドにつられて彼の愛をすてた恋人お宮を、熱海の海岸で蹴倒す場面を一つのクライマックスとしている。明治も中葉となれば、その官僚主義も学閥も黄金魔力に毒されてゆく。 もし、昔の東大の「よき日よき大学」に・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安全にするためには冷笑して拒んだ非人間らしさを描き出している。「渋谷家の始祖」は一九一九年のはじめにニューヨークで書かれた。二十一歳になった作者が、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ 皮相的な、浮きあがった表現の著しい例をわれわれは、この小説のクライマックスともいうべき「共同視察」の場面に発見する。ドヤドヤと視察者が入ってくる。佐田はさすがに「厄介なことになった」と思うが、あくまで自由な質問応答をやり、「活溌にやる・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そこまでは比較的自然に運ばれて来た観客の感情がそのような場面に近づくにつれ次第に不自然な道どりに引き入れられて、いわゆるクライマックスでは一目瞭然たる張子の森林などの中に恋人たちとともに案内されるのは迷惑である。そういう点だの技術的な俗習、・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・北鮮の新幕から三十八度線をこえて開城につくまでの徒歩行進の辛苦の描写は強烈で、一篇のクライマックスとなっているのであるが、著者は、新京から引揚げの開始された八月九日の夜から一ヵ年の苦しい月日のうちに起ったできごとを、その身でぶつかり、たたか・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・山口一太郎氏の二篇の実録をよむと、この人が二・二六事件をクライマックスとする陸軍部内の青年将校の諸陰謀事件に、密接な関係をもっていたことがはっきり書かれている。同氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・ ――○―― 彼が帰朝以前から問題に成って居る、分家問題は、此の二三日に於てそのクライマックスに達した。 親達の意見は、物質的に保障のない、社会的に位置のない彼を真ともに世間に向けて生活するよりは、父の威を暗示し・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・第二次ヨーロッパ大戦は次第にクライマックスに向いはじめた。日本の天皇制権力とその軍閥は目前のドイツファシズムの勝利に誘惑されて野心を夢みはじめた。 執筆一月。朝の風。生活者としての成長。三月。昔の火事。五月。夜の若葉。・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ カッスル夫人がほんとうの芸術家の情緒に生きているならば、あのクライマックスでこそ踊らずにはいられないだろうと思う。女として自分の裡に活きているそのまざまざとした歓び、そして、この苦痛。体を凝っとはさせていられまい。そこで踊る彼女であっ・・・ 宮本百合子 「表現」
・・・ わたしは、帝劇の舞台に間近な補助椅子にかけていて、目をこらして、この貧寒なクライマックスを観た。そして、牢やの中のあばずれは、ともかく表現したこの女優が、この人間的飛躍のクライマックスでしめした日本式転身の姿に、うたれた。山口淑子の俳・・・ 宮本百合子 「復活」
出典:青空文庫