・・・ことに点呼当日長髪のまま点呼場へ出頭した者は、バリカンで頭の半分だけ刈り取られて、おまけに異様な姿になった頭のままグランドを二十周走らされ、それが終ると竹刀で血が出るくらいたたかれるらしいという噂は、私を呆然とさせた。東京にいる友人からの手・・・ 織田作之助 「髪」
・・・客窓の徒然を慰むるよすがにもと眼にあたりしままジグビー、グランドを、文魁堂とやら云える舗にて購うて帰りぬ。午後、我がせし狼藉の行為のため、憚る筋の人に捕えられてさまざまに説諭を加えられたり。されどもいささか思い定むるよし心中にあれば頑として・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・決して叱らないから、いまお前たちが、あの、外のグランドで一緒に歌っていた唱歌を、ここで歌ってごらん。低い声でかまわないから、歌ってごらん。叱るんじゃないんだよ。先生は、あの歌を、ところどころ忘れたのでね、お前からいま教えてもらおうと思ってい・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ ゴルフ場からニューグランドへの、清流に沿うてゆるやかにうねり行く山腹の道路は、どこか日本ばなれのした景色である。樺や栃や厚朴や板谷などの健やかな大木のこんもり茂った下道を、歩いている人影も自動車の往来もまれである。自転車に乗った御用聞・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・この最初の研究実験はターリングの邸宅の古いグランドピアノの上で行われたのである。 色の研究をしているうちに、空の色の影響に気が付き、それから、空の色そのものの研究に移り、ついに有名な λ-4の写真を撮って、それで光学格子を作るという、自・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・そら、むすこが、エングランド、ロンドンにいて、おやじがスコットランド、カルクシャイヤにいた。むすこがおやじに電報をかけた、おれはちゃんと手帳へ書いておいたがね、」 じいさんは手帳を出して、それから大きなめがねを出してもっともらしく掛けて・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・英語の通訳、ドイツ語の通訳が玄関を飛び交うサヴォイやグランド・ホテルは例外である。そこは、ソヴェトのただ狭い客間である。一九二八年代、どこのホテルの廊下ででも給仕男が大きな盆に茶や食物やをのっけ、汗だくで運んで行く恰好を見ることが出来た。む・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・で彼らは蓋したベッシュタインのグランド・ピアノを見るだろう。英国史上あらゆる女皇の不器量な大理石像を見るだろう。止った遊覧自動車のまわりは顔面と声だけ夜から見分けのつく大小の子供達で鈴なりである。 ――ペニーおくれよ、小父さん! ―・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫