・・・ 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の言葉、男の言葉に著しい違いのある点、文字が見た眼には、字画がグロテスクで、実は精緻な直感に欠けていることなども不満としてあげられます。 けれども、ペンをとり、物を書こ・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・ 桃龍は、文楽人形のようなグロテスクなところがどこにかある顔で対手を睨むような横目した。「――怪体な舞まわされて、走らずにいられへんわ」 都踊りの最後の稽古の日、その日はまあ大事の日だから、自信のある年嵩の連中でもちゃんと時間前・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・くして結ばれていたが、その他の面では云わば各人各様で、或る作家は芸術至上を説き、或る作家は科学・機械文明との新しい結合で文学を見ようとし、或る人は新心理派へ眼を向け、作家の資質に従ってエロティシズム、グロテスクな追求も行われた。 この「・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・こんにちエロティックな文学、グロテスクな文学、自虐的な文学、それぞれが、このがたぴしした資本主義社会生活の矛盾そのものの中に自分をらくに流してゆく溝をもっている。これに反して、新しい人間生活のために暗渠をつくり、灌漑用水を掘り、排水路をつけ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ピカソとマチスを並べてみてある共通性があるとしても、それぞれ独自の世界であり、ルオーのグロテスクは武者小路実篤にわかると思われていても数百万の勤労者に分らないのが自然である。美術品も商品である。これが資本主義社会での美術である。画商の存在の・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・病苦をめぐる良人の感情、妻の感情など素直にひたむきに描れているし、淫売屋での二人の女の会話のところなども自然であるために、すぐその前の、考えて見ればグロテスクな場面もいやらしくなくなり、情がうつている。 そこまでは各選者とも一致した意見・・・ 宮本百合子 「入選小説「毒」について」
・・・小山いと子が、中間小説や風俗小説の刺戟的な方法に学んでグロテスクな誇張におちいらないで、むしろ常識の善良さで、この戦後的題材の小説をまとめていることは興味がある。然し、その常識的善良さは、更に鋭く客観的な観察に発展させられる必要がある。・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・資本主義化された海港都市にあって一層グロテスクであるところの中国苦力に乞食。エロチックであるところの植民地中国売笑婦だ。今日の中国と世界プロレタリア革命との必然的連関ではない。 説明するまでもなくエキゾチックだということは、ある民族の自・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・に対する日本の有識者間の批評とドイツの批評との間に横るグロテスクな現代的矛盾についてなど若し一事実として報告的にふれられることが出来たら、それも各国間の批評の交換と国際的な芸術批評の水準引あげに役立つのではなかろうか。 定期刊行の雑誌の・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・ネーには、このグロテスクな中に弱味を示したナポレオンの風貌は初めてであった。「陛下、そのヨーロッパを征服する奴は何者でございます?」「余だ、余だ」とナポレオンは片手を上げて冗談を示すと、階段の方へ歩き出した。 ネーは彼の後から、・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫