・・・日本人でありながらロシア人やアメリカ人になったような気持ちで浮かれた事を満載した書物はよく売れると見えて有り過ぎるほどあるのに、連句の本などはミイラかウニコーンを捜す気で捜さなければ見つからない。これが何よりの証拠である。ただ近来少数ではあ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・すのは、二、三日荒れに荒れた木枯しが、短い冬の日のあわただしく暮れると共に、ぱったり吹きやんで、寒い夜が一層寒く、一層静になったように思われる時、つけたばかりの燈火の下に、独り夕餉の箸を取上げる途端、コーンとはっきり最初の一撞きが耳元にきこ・・・ 永井荷風 「鐘の声」
・・・』 アウシュコルンは驚惶の体で、コーンヤックの小さな杯をぐっとのみ干して立ちあがった。長座した後の第一歩はいつもながら格別に難渋なので、今朝よりも一きわ悪しざまに前にかがみ、『わしはここにいるよ、わしはここにいるよ。』と繰り返し・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫