・・・あれをみて戦争中、「スパイ御用心!」と到るところに貼られていたポスターを思い出さない人があるでしょうか。そして、あの悲しいポスターと、この歎かわしいポスターとが、本質において、一つものだということを感じない人があるでしょうか。それを一つとし・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・日本の警察とスパイのシステムが世界に冠たるものであるように。それは十四年間の戦争中に、戦争の段階に応じて残酷さの程度をまして来た。特攻隊をつくり出すまで非人道になり、絶望した若い人々を、そのせっぱつまった心理から、猛然として敵前上陸でも何で・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・マルクス主義を深く理解している者としての筆致で、野呂栄太郎の伝記が細かに書かれ、最後は野呂栄太郎がスパイに売られて逮捕され、品川署の留置場で病死したことが語られている。「昭和八年十一月二十八日敵の摘発の毒牙にかかって遂に検挙され」当時既に肺・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・赤い御用提燈に毒々しくスパイ御用心と書かれていた。当時の権力者たちは、自分らでまきおこした大惨禍を、国民が反省し、考察し、批判して是非を論じることを極端におそれた。そういうものを一括して、スパイと思わせた。道理に立つ足場が弱かったから、それ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・宮本顕治は九段上でスパイのため売り渡され、検挙された。スパイは当時日本共産党東京地方に活動していた渾名亀こと高橋であった。一九三三年は文学的には殆ど活動不可能の状態であった。左翼に対する弾圧は、ジャーナリズムの上にプロレタリア作家の・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・そして一九三三年十二月、スパイの手引によって検挙され、一ヵ年間留置場生活を経て、未決におくられた。往復書簡は自然、その一年間の出来事にもふれているので、「十二年の手紙」とされている。 一九五〇年六月五日〔一九五〇年六月〕・・・ 宮本百合子 「はしがき(『十二年の手紙』その一)」
・・・その頃非合法におかれていた共産党の中央委員のなかに、大泉兼蔵、小畑某というスパイをいれ、大森のギャング事件、川崎の暴力メーデーと、大衆から人民の党を嫌わせるような事件を挑発させたのも、安倍源基とその一味でした。スパイは、日本全国の党組織に入・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・人々が十数年前、どこか市内の土蔵の地下室にその印刷所があったことを知ったときは、スパイによってその場所があばかれ、当時活動していた重吉たちすべてに、事実とちがう誹謗の告発がされた時であった。ひろ子の文学上の友人で、その頃、印刷所関係の仕事を・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ ブルジョア探偵小説の一部としてのスパイ物語は正に国際的舞台を背景としている。中河与一の南洋紀行。吉行エイスケの中国もの。それぞれ、確に日本以外の外国をとり入れ、それを主題としている点では一見国際的であるらしく思える。 では、そうい・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ 長篇の今後の展開の中で主人公は共産主義者として行動し、そこには過去十数年間日本の人民の蒙った抑圧と戦争への狩り立て、党内スパイの挑発事件、公判闘争なども描かれます。このような作品は日本の労働者階級の文学に新しい局面をひらいているとい・・・ 宮本百合子 「文学について」
出典:青空文庫